2026年10月26日
片頭痛は世界で10億人以上が罹患していると推計される代表的な神経疾患であり、若年から中年女性の生活の質(QOL)を大きく損なう疾患の一つです。近年、片頭痛の病態解明が進み、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin Gene-Related Peptide:CGRP)が発症機序の中核を担うことが明らかとなりました。この知見をもとに開発されたCGRP関連抗体製剤は、片頭痛予防治療に新たな選択肢をもたらしています。その中で、ビエプチ®(一般名:エプチネズマブ)は、静脈内投与型抗CGRPモノクローナル抗体として注目されています。わが国でも2026年9月16日に「ビエプチ®点滴静注100mg」が、「片頭痛発作の発症抑制」を目的とする薬として厚生労働省から正式に承認されています。
CGRPと片頭痛の病態
CGRPは三叉神経終末から放出される神経ペプチドであり、血管拡張作用や神経原性炎症の促進、疼痛伝達増強に関与しています。片頭痛発作時には血中CGRP濃度の上昇が確認されており、発作の寛解に伴って低下することも知られています。
エプチネズマブは、このCGRP分子そのものに結合し、その生物学的活性を阻害します。CGRP抗体製剤は片頭痛の病態に特異的に設計された予防薬です。
エプチネズマブの特徴
エプチネズマブは12週間(約3ヶ月)ごとに静脈内点滴を行う治療です。通常、成人に100mgを約30分かけて投与します。
同じCGRP関連抗体製剤にはエレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブがありますが、これらが皮下注射製剤であるのに対し、エプチネズマブは国内初の静脈内投与(点滴)製剤である点が異なります。
薬物動態学的には、点滴投与により投与直後から高いバイオアベイラビリティを得ることができ、薬剤が速やかに循環血中へ到達するという特徴を持っています。
臨床試験が示した有効性
エプチネズマブの有効性を評価した代表的な国際共同第III相試験としてPROMISE-1試験、PROMISE-2試験、SUNRISE試験、SUNSET試験があります。
- PROMISE-1試験(反復性片頭痛患者を対象)
臨床試験において、エプチネズマブ投与群はプラセボ群と比較して月間片頭痛日数(Monthly Migraine Days:MMD)が有意に減少しました。投与後12週間にわたり予防効果が認められ、50%以上の頭痛日数減少を達成した患者割合もプラセボ群を上回りました。 - PROMISE-2試験(慢性片頭痛患者を対象)
慢性片頭痛(月15日以上の頭痛を認め、そのうち8日以上が片頭痛である状態)を対象とした試験において、投与後12週間にわたるMMD減少量がプラセボ群を有意に上回り、治療効果の持続性も確認されました。従来の予防治療で十分な効果が得られなかった患者を含む集団においても良好な結果が認められたことから、慢性片頭痛治療における重要な選択肢の一つとして位置付けられています。 - SUNRISE試験(アジアの慢性片頭痛患者を対象)
日本の慢性片頭痛患者を含むアジアの集団を対象とした国際共同第III相試験において、エプチネズマブ投与群はプラセボ群と比較して月間片頭痛日数(MMD)が有意に減少しました。投与後12週間にわたり良好な発作抑制効果が認められ、月間片頭痛日数が75%以上減少した患者の割合もプラセボ群を大きく上回りました。アジア人集団における有効性と安全性を科学的に検証した、国内承認の基盤となる重要な試験です。 - SUNSET試験(国内の慢性片頭痛患者を対象とした長期継続投与)
SUNRISE試験を完了した日本人の慢性片頭痛患者を対象に、さらなる長期の安全性と効果の持続性を評価した第III相臨床試験です。12週間隔で計5回(60週間)にわたる繰り返し投与を行った結果、初期に得られた片頭痛の頻度減少および生活の質(QOL)の改善効果が長期にわたって安定して維持されることが確認されました。長期間の投与においても新たな安全性の懸念は認められず、高い治療継続率とともに良好な長期忍容性が示されています。
早期効果に関する臨床データ
エプチネズマブの特徴の一つとして、臨床試験では、投与翌日からプラセボ群との差が認められ、早期から予防効果が発現する可能性が示されています。点滴静注製剤としての速やかな血中濃度上昇が、この早期の効果発現に寄与していると考えられています。
安全性評価
臨床試験および長期追跡試験において、安全性プロファイルは概ね良好であることが示されています。
主な副作用(1%以上)としては、
- 過敏症反応(発疹、蕁麻疹、そう痒症など)
- 注入に伴う反応(鼻閉、鼻漏、のどの刺激感、咳、くしゃみ、疲労など)
などが報告されています。
生物学的製剤であるため、まれではありますが、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症が報告されており、投与時には注意が必要です。また、従来の経口予防薬の一部でみられたような肝障害、認知機能への影響、体重増加といった副作用が少ないことも特徴です。
国内外ガイドラインでの位置づけ
国際頭痛学会(IHS)、米国頭痛学会(AHS)、日本頭痛学会などが公表する診療指針において、CGRP関連抗体製剤は高いエビデンスを有する予防治療として位置付けられています。従来の経口予防薬が無効または忍容不能となった患者さんはもちろん、有効性と安全性の高さから、慢性片頭痛や高頻度反復性片頭痛患者における重要な選択肢として広く活用が期待されています。
今後の展望
片頭痛は単なる頭痛ではなく、仕事や学業、家庭生活にも大きな影響を及ぼす慢性疾患です。近年は病態に基づいた治療薬の開発が進み、CGRP関連抗体製剤によって予防治療の選択肢が大きく広がりました。
ビエプチ®(エプチネズマブ)は、3か月に1回の点滴投与で片頭痛発作の頻度を減少させることが期待される新しい予防治療薬です。特に、発作回数が多い方や、これまでの予防薬で十分な効果が得られなかった方にとって、有力な治療選択肢となる可能性があります。
片頭痛により日常生活に支障を感じている方は、一人で悩まずに頭痛診療を専門とする医療機関へご相談ください。適切な診断と治療により、発作頻度や生活への影響を軽減できる可能性があります。

