緊張型頭痛
緊張型頭痛

緊張型頭痛は、頭の両側や後頭部を中心に、帽子をきつくかぶったような圧迫感や締めつけられるような鈍い痛みが特徴です。ズキズキと脈打つような痛みではなく、じわじわと続くような不快感が多く、30分ほどで治まることもあれば、数日間続くこともあります。吐き気や光・音に敏感になるといった症状はあまり見られず、代わりに肩こりや首のこり、めまいやふわふわした感じを伴うことがあります。日常の動作で痛みが強くなることは少なく、片頭痛とは異なる性質を持っています。かつては頭や首の筋肉の緊張が原因と考えられていましたが現在では、ストレスや不安、精神的な緊張など、心の状態が大きく関係していると考えられています。
帽子をきつくかぶったような圧迫感、締めつけられるような鈍い痛み。ズキズキではなく、じわじわ続く不快感。
肩こり・首こり・めまい・ふわふわ感。吐き気や光・音過敏は少ない。
30分程度〜数日間。
少ない(片頭痛とは異なる)。
緊張型頭痛は、一次性頭痛(特定の病気が原因ではない頭痛)の中で最も多く見られるタイプです。世界的には約3人に1人が経験するとされており、特に「反復性緊張型頭痛」は30%の人に見られるという報告があります。日本でも多くの方が悩まされており、全国調査では年間の有病率が約22%と非常に身近な頭痛です。この頭痛は、40〜50歳代を中心に、20〜70歳代まで幅広い年代に見られます。年齢とともに少しずつ減少する傾向はありますが、片頭痛のように急激に減ることはなく、高齢者でも初めて発症することがあります。また、片頭痛のように遺伝的な要素は強くなく、家族に頭痛持ちがいなくても起こることがあります。原因や誘因についてはまだ十分に解明されていませんが、肥満・運動不足・喫煙などが関係している可能性があるとする報告もあります。
緊張型頭痛は、一次性頭痛の中でも最も多く見られるタイプであり、診断には「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)」という国際的な基準が用いられます。診察では、頭の周囲を触って圧痛(押したときの痛み)があるかどうかを確認します。圧痛は、頭痛がないときでも現れることがあり、頭痛の頻度や強さに応じて強くなる傾向があります。頭痛の発作時には、さらに圧痛が強くなることもあります。ただし、注意が必要なのは、他の病気によって起こる「二次性頭痛」が緊張型頭痛に似た症状を示すことがあるという点です。そのため、診断では身体の状態や神経の働きを丁寧に確認し、必要に応じて画像検査や血液検査などを組み合わせて慎重に進めていきます。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に基づき、頻度で3タイプに分類。
頭部の圧痛の有無を確認。
片頭痛や二次性頭痛との区別が重要。
肩こり=緊張型頭痛とは限らず、片頭痛でも見られる。
緊張型頭痛は、肩こりや首のこりとともに現れることが多い頭痛ですが、その原因やしくみはまだ完全には解明されていません。ただし、最近の研究では、痛みを感じる神経の過敏さ(感作)が関係していると考えられています。
時々起こる「反復性緊張型頭痛」では、精神的・身体的なストレスや、長時間同じ姿勢でいること、筋肉の緊張などが続くことで、頭や首の筋肉がこわばり、神経を刺激する物質が放出されます。これにより、痛みを感じるセンサー(侵害受容器)が敏感になり、本来なら痛みを感じないような弱い刺激でも痛みとして感じるようになります。このような状態を「末梢性感作」と呼び、頭や首の筋肉・筋膜のまわりで起こります。
一方、ほぼ毎日のように続く「慢性緊張型頭痛」では、痛みの刺激が長期間続くことで、脳や脊髄などの中枢神経の働きにも変化が起こります。本来、痛みを抑えるはたらきがある神経系(下行性疼痛抑制系)がうまく働かなくなり、痛みの信号が過剰に伝わるようになります。このように、脳や脊髄のレベルで痛みを感じやすくなる状態を「中枢性感作」と呼びます。反復性の頭痛が慢性化する背景には、この中枢性感作が関係していると考えられています。
緊張型頭痛は、症状の頻度や重症度によって治療方針が異なります。痛みが軽く、日常生活に支障がない場合は、治療や通院の必要がないこともありますが、繰り返す頭痛や慢性的な痛みがある場合には、適切な診断と治療が重要です。
治療は「急性期治療」と「予防療法」に分けられます。さらに、薬による治療と薬を使わない治療があり、患者さんの症状や生活スタイルに合わせて組み合わせていくことが大切です。
急性期治療では、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が基本となります。具体的には、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセンなどがよく使用されます。これらの薬は、痛みが強くなったときに一時的に使用することで、日常生活への支障を軽減する効果が期待できます。
必要に応じて、ベンゾジアゼピン系薬剤を短期間使用することで効果が高まることもありますが、依存性のリスクがあるため、連用は避けるべきです。また、筋肉の緊張を和らげる薬として「チザニジン」が使われることもありますが、保険適用外のため、医師の判断と患者さんの病状に応じて慎重に検討されます。慢性型の緊張型頭痛では、薬の使いすぎによって頭痛が悪化する「薬剤の使用過多による頭痛」に注意が必要です。
予防療法は、月に10日以上頭痛がある場合や、慢性的に頭痛が続く場合に行われます。第一選択として用いられるのが三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)で、抑うつ症状がなくても痛みを抑える効果があることが知られています。副作用として眠気や口の渇き、便秘などがあるため、少量から開始し、様子を見ながら徐々に増量していきます。
その他にも、四環系抗うつ薬や新しいタイプの抗うつ薬(ミルタザピン、ベンラファキシンなど)が使用されることがあります。ただし、これらは保険適用外の場合もあるため、医師と相談しながら治療方針を決めていくことが重要です。
薬物療法だけでなく、薬を使わない治療も有効な場合があります。特に、薬が使えない場合や、薬と併用することで効果を高めたい場合に取り入れられます。精神療法や行動療法としては、認知行動療法(ストレスと頭痛の関係を理解し、対処する方法)やマインドフルネス、リラクセーション法、催眠療法などが挙げられます。これらは、心の緊張をほぐし、頭痛の頻度や強さを軽減することにつながる可能性があります。
また、理学療法として運動プログラムや頭痛体操など、身体を動かすことで症状を和らげる方法や、鍼灸についても有効性が報告されています。
アセトアミノフェン、NSAIDs(ロキソニン、イブプロフェンなど)
ベンゾジアゼピン系(短期使用)、チザニジン
三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)
四環系抗うつ薬、新規抗うつ薬(ミルタザピン、ベンラファキシンなど)
治療を進めるうえで大切なのは、問診や頭痛ダイアリーを通じて、ストレスや生活習慣などの誘因を見つけ、患者さん自身が頭痛のしくみを理解することです。ご自身の体調や生活に合った治療を選び、医師と一緒に無理なく続けていくことが、緊張型頭痛の改善につながります。
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