群発頭痛
群発頭痛

群発頭痛は、片側の目の奥やこめかみに突き刺すような激しい痛みが突然襲ってくる、一次性頭痛のひとつです。発症は10代から30代に多く、男性に圧倒的に多いという特徴があります。女性に比べて3〜5倍の頻度で起こるとされますが、女性の群発頭痛が見逃されることもあるため、性差にとらわれすぎない診断が求められます。
発作は1回につき15分から3時間ほど続き、痛みは眼窩部から側頭部にかけて広がります。時には歯や鼻、耳の奥にまで痛みが及ぶこともあり、初期には歯科や耳鼻科、眼科を受診するケースも少なくありません。中には誤った診断により不要な抜歯を受けてしまう患者もいます。
発作は特に夜間、就寝中に起こりやすく、睡眠不足に陥ることも多いのが特徴です。痛みと同時に、涙が出る、鼻がつまる、目が赤くなるなどの副交感神経症状が現れます。さらに、瞳孔が小さくなる縮瞳やまぶたが下がる眼瞼下垂といった交感神経症状も伴います。発作中はじっとしていられず、歩き回ったり体を揺らしたりする不穏な行動を示すことがありますが、約3割の患者はその不快感を耐えながら静かに過ごすといいます。
群発頭痛には「群発期」と「寛解期」があり、群発期には毎日のように発作が続きます。この期間は数週間から数カ月に及び、1日に最大8回もの発作が起こることもあります。群発期が終わると、頭痛は完全に消失し、しばらくの間は症状が現れない寛解期に入ります。群発期が1年以内に繰り返される場合は「反復性群発頭痛」、1年以上続く場合は「慢性群発頭痛」と診断されます。慢性型は欧米では10〜15%の患者に見られますが、アジアでは0〜7.5%と少ない傾向があります。
興味深いのは、発作が1日の中でほぼ同じ時間帯に起こること、そして群発期が年に1〜2回、同じ季節に繰り返されることです。この規則性から、体内時計を司る視床下部が病態に関与している可能性が示唆されています。
群発頭痛の診断は国際頭痛分類に基づいて行われます。典型的な症例であれば診断は容易ですが、実際には多くの患者が正しい診断にたどり着くまでに平均7〜8年を要しています。インターネットで情報を探し、ようやく専門医にたどり着くというケースも少なくありません。
群発頭痛は片頭痛と誤診されることが多く、これは両者が片側性の痛みを共有していること、さらに群発頭痛患者の3〜4割に悪心や音・光過敏がみられることが原因と考えられます。しかし、発作の持続時間や群発期の存在、発作時の行動(群発頭痛では動き回る、片頭痛では安静にする)などが鑑別の鍵となります。また、片頭痛患者は飲酒・喫煙率が低い傾向があるのに対し、群発頭痛では喫煙率が高く、飲酒が発作の誘因となることもあります。
診断時には、非典型的な症状や初発例ではMRIなどの画像検査で二次性頭痛を除外することが重要です。さらに、発作の持続時間が短い場合や治療が奏効しない場合には、他の三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)との鑑別も必要になります。TACsには群発頭痛のほか、発作性片側頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作、持続性片側頭痛が含まれ、インドメタシンへの反応性が診断の手がかりとなることがあります。
群発頭痛は、日常生活に大きな支障をきたす頭痛です。発作の激しさだけでなく、毎日決まった時間に繰り返されるという特徴があるため、仕事や睡眠、生活リズムに深刻な影響を及ぼします。こうした負担を少しでも軽減するためには、急性期治療と予防療法の併用が重要です。
現在、日本で保険適用されており、ガイドラインでも強く推奨されている急性期治療は、スマトリプタン皮下注と高濃度酸素吸入の2つです。
スマトリプタン皮下注は、発作開始から10分以内に効果が現れ、90%以上の高い有効率が報告されています。自己注射キットとして提供されているため、自宅や職場でもすぐに使用できるのが大きな利点です。1日2回まで使用可能ですが、それ以上の発作が起こる場合やスマトリプタンが使えない方には、酸素吸入が第一選択となります。
酸素吸入は医療機関だけでなく、在宅酸素療法としても保険適用されており、フェイスマスクを使って7リットル/分で15分間吸入する方法が推奨されています。もし効果が不十分な場合は、12リットル/分への増量も検討されます。
残念ながら、群発頭痛に対する予防薬は日本では保険適用されていませんが、ベラパミルとステロイドが適応外使用として認められています。
ベラパミルは海外の臨床試験で有効性が示されており、日本では120〜240mg/日が推奨されています。効果が現れるまでには1〜2週間かかるため、その間はステロイドによる移行治療が行われます。ステロイドは通常プレドニゾロンが用いられ、60〜100mgを5日間服用した後、10mgずつ減量して中止します。
また、海外では後頭部へのステロイド皮下注による予防効果も報告されています。さらに、夜間の発作による不眠に対しては、ラメルテオンというメラトニン受容体アゴニストの使用で発作が抑えられた症例もあり、睡眠障害への対応として注目されています。
予防療法は群発期が終了したら中止するのが原則です。
近年、群発頭痛に対する新しい治療法も登場しています。米国では、CGRP関連薬のガルカネズマブと、非浸襲的経皮的迷走神経刺激療法が承認されています。
ガルカネズマブは、反復性群発頭痛の予防薬として300mgで使用されており、日本では片頭痛治療薬として承認されていますが、群発頭痛への適応はまだ進行中です。なお、欧州では効果が限定的との理由で承認されていません。
迷走神経刺激療法は、頸部にポータブルデバイスを当てて神経を刺激する方法で、急性期と予防期で刺激のタイミングが異なります。急性期では2分間の刺激を3回行い、3分後に再度同様の刺激を繰り返します。予防療法では朝夕に2分間×3回の刺激を行います。
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