IgA腎症
IgA腎症

慢性糸球体腎炎のうち、腎臓の病理組織像として糸球体メサンギウム細胞と基質の増殖性変化とメサンギウム領域へのIgAを主体とする沈着物を認めるものをいいます。何らかの人種的・遺伝的背景も想定されていますが、不明な点も多い疾患です。日本やアジア太平洋地域の諸国で多く、北欧や北米では比較的少ないとされています。成人・小児共に男性にやや多く、発見時の年齢は成人では20歳代、小児では10歳代が多く患者層は全ての年齢にわたっています。症状はほとんどなく日本では健診などの機会にたんぱく尿・血尿が発見されるものが大多数を占めます。透析導入の原疾患としては10~15%程度を占めていますが、診断時の腎機能や症状により予後が異なります。成人発症のIgA腎症では10年間で透析や移植が必要な末期腎不全に至る確率は15~20%、20年間で約40%弱と言われています。降圧薬(特にレニン・アンギオテンシン系阻害薬)や副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用により1996年以降、予後が改善しているとの報告があります。また、小児では、成人よりも腎予後は良好とされています。
ヒトには体に侵入した異物を排除する「免疫」という防御システムが備わっています。免疫において重要な役割を果たすものに免疫グロブリンがあります。免疫グロブリンは「抗体」と呼ばれ、体内に侵入した異物と結合し、排除するようにはたらきます。
IgA腎症もこの免疫が病気の発症に関係しています。のどの奥の扁桃などのリンパ組織への感染症(感冒など)や鼻腔内への抗原刺激により免疫に関係する免疫グロブリンIgA(Immunoglobulin A)の異常な免疫複合体が腎臓の糸球体のメサンギウム領域という場所に沈着して腎炎を起こすと考えられています。また最近では、遺伝的な粘膜免疫の素因が本症の病態との関係で研究が進展しつつあるが、免疫複合体を形成している抗原の同定は未だ十分にはされていません、糖鎖異常IgA自体が免疫複合体形成の原因となっている可能性もあるようです。その他、糸球体硬化に至る本症の進展については本症以外の多くの糸球体疾患と共通した機序が存在することが明らかになりつつあります。このようにIgA腎症の原因は不明な点が多いというのが現状です。
自覚症状はほとんどありません。健康診断でたんぱく尿や血尿を指摘されて受診される方が多いです。血尿は発症の初期に80%以上の患者さんにみられます。肉眼的血尿の場合はコーラのような色をしていることが多く、風邪などの上気道感染後、1~3日後ぐらいにみられます。時に肉眼的血尿とともに急性腎機能障害を起こす場合もあります。
確定診断には腎生検による糸球体の観察が唯一の方法となります。
検査は入院で行われるのが一般的です。エコー(超音波)ガイド下に行われます。
採取する腎組織は、鉛筆の芯くらいの太さで、長さ1~2cm程度で2、3検体採取します。
患者さんはうつぶせになって検査を行います。背中から超音波をあてて、腎臓に針を刺す位置を決定し皮膚の表面から痛み止めの注射(局所麻酔)を腎臓の表面まで十分に行います。次に麻酔したところに生検針を刺し、腎臓の表面まで針を進めます。
息を吸ったところで呼吸を止めてもらい、その間に腎組織を採取し、針を抜きます。
腎臓は血流が豊富で出血リスクが高いため、検査終了後5~10分間しっかり圧迫止血を行いその後も仰向けで6~12時間のベッド上安静が必要となります。最も多い合併症は生検部位からの出血と血尿です。軽い出血が腎周囲にできることは多いですが、ほとんどの場合、安静により自然に吸収されます。
根本的な治療法が得られていないために、対症療法が行われているのが現状です。レニン・アンギオテンシン系阻害薬、副腎皮質ステロイド薬(内服・点滴)、免疫抑制薬、口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス併用療法)などで治療を行います。進行抑制を目的とした成人IgA腎症の治療の適応は、腎機能と尿蛋白に加えて、年齢や腎病理組織像も含めて総合的に判断されます。また、症例に即して血圧管理、減塩、脂質管理、血糖管理、体重管理、禁煙などが必要となります。
(2025年12月現在、研究開発中の製品も含む、日本での保険適応はありません)
APRILは、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)13番目のファミリーに属するサイトカインで、IgA腎症の発症と進行に深く関与しています。APRILは、B細胞のIgA産生細胞へのクラススイッチを促進し、IgA腎症においては腎臓で免疫複合体を形成する病原性の高いGd-IgA1の産生を誘導します。シベプレンリマブは、APRILに選択的に結合することでその活性を阻害するモノクローナル抗体です。Gd-IgA1の産生を抑え、IgA腎症における腎障害の進行や末期腎不全への進行を遅らせることが期待されます。
選択的エンドセリンA受容体拮抗薬であり、既存のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を含む支持療法に上乗せすることが可能で、タンパク尿減少効果が期待されます。
BAFF(B cell activating factor)およびAPRIL(a proliferation inducing ligand)に対する拮抗薬です。BAFFおよびAPRILは、B細胞の活性化、分化および生存を促進し、複数の自己免疫疾患の病態進展に重要な役割を果たしており、ポベタシセプトはBAFFおよびAPRILを阻害することでB細胞の働きを制御します。
エンドセリン受容体とアンジオテンシンII受容体の両方をブロックし蛋白尿の有意な減少と腎機能維持に効果が示されています。
IgA腎症において上記のように新たな治療法が開発されております。今後、治療の選択肢が増え腎障害の進展抑制に貢献出来ればと期待されています。
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