2025年7月16日

近年まで片頭痛の治療薬としては、発作時に用いる鎮痛薬に加え、血管拡張による発症メカニズムに基づき、血管収縮作用を持つ薬剤として開発されたトリプタン系薬剤が急性期治療に広く使用されてきました。また、長年にわたる臨床経験に裏打ちされた各種予防薬も用いられてきました。
その後の研究により、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が片頭痛発作の中核的因子であることが明らかとなり、CGRPシグナル伝達を遮断することが、急性期および予防療法のいずれにおいても有効であることが示されました。これを受けて、日本では2021年4月にCGRP関連抗体薬が登場し、治療の選択肢が広がりました。海外ではさらに、ゲパント(Gepant)と呼ばれる新規薬剤群も実臨床で使用されています。
ゲパントとは
CGRPに対する小分子拮抗薬の中には、基礎研究および臨床試験によって、CGRPの作用を選択的かつ強力に阻害する効果が確認されたものがあります。これらは化学構造こそ異なるものの、共通してCGRP受容体を阻害するという作用機序を持ち、総称して「ゲパント」と呼ばれています。
海外においてCGRP受容体拮抗薬(gepant系)はatogepant、rimegepant、ubrogepant、zavegepantの4種が臨床応用されています。atogepantは予防薬として、rimegepantは急性・予防両方に適応。ubrogepantは初のgepant製剤で、急性期に使用されます。zavegepantは第3世代で、経鼻投与により30分で効果を発揮します。いずれも薬物相互作用に注意が必要ですが、安全性や利便性の面で新たな選択肢となっています。
ゲパントへの期待と課題
ゲパントは安全性が高く、実際の臨床でも効果が示されており、特に以下のような方にとって有力な選択肢となる可能性があります。
• トリプタンが効果不十分な方
• トリプタンの使用過多による頭痛(MOH)を生じた方
• 心血管リスクを抱える方
また、ゲパントはトリプタンやジヒドロエルゴタミンと比較して副作用が少なく、忍容性が高いとされています。一方でrimegepantとubrogepantはCYP3A4酵素により代謝されるため、同じ経路を利用する薬剤との薬物相互作用に注意が必要です。
ゲパントとCGRP阻害戦略の違い(トリプタンとの比較)

本邦では2024年11月に片頭痛の急性期治療と予防の両方を対象にrimegepantが、2025年3月に片頭痛予防薬としてatogepantの2製剤が申請されています。これらの薬が承認されれば治療の選択肢が大きく広がり、患者さんの生活の質向上に貢献することが期待されます。