2025年5月27日
歴史と進化
片頭痛の治療は、長年にわたり病態生理の理解とともに進化してきました。かつては血管拡張が片頭痛の主因とされ、これを抑えるためにエルゴタミンが用いられていました。しかし、研究が進むにつれ、三叉神経の過剰興奮とCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を中心とした病態が明らかになり、治療戦略も大きく変化しました。
急性期治療の進化
従来の急性期治療では、鎮痛薬やトリプタン系薬が中心でした。特にトリプタンは1990年代に開発された5-HT1B/1D受容体作動薬であり、三叉神経の活性を抑えるとともに血管収縮作用を持つことで頭痛の軽減に寄与しました。しかし、この血管収縮作用が原因で、虚血性心疾患や脳梗塞の既往がある方には使用できないという制限がありました。
最近では、血管収縮作用を伴わない新規急性期治療薬として経口5-HT1F受容体作動薬(ラスミジタン)が登場し、より幅広い患者層への適応が期待されています。ラスミジタンは三叉神経の過剰興奮を抑制することで片頭痛を軽減し、血管収縮のリスクを回避できる点が大きな利点です。
予防治療の発展
片頭痛の予防治療は、長年の臨床経験に基づき、カルシウム拮抗薬(ロメリジン)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)、抗うつ薬(アミトリプチリン)などが使用されてきました。これらの薬剤は片頭痛専用の治療薬ではありませんが、神経系や血管調節に作用することで発作の頻度を減らす効果が認められています。
近年、片頭痛治療における大きな進展としてCGRP関連治療薬が登場しました。2021年には日本でもエレヌマブ(erenumab)、フレマネズマブ(fremanezumab)、ガルカネズマブ(galcanezumab)の3種類のCGRP関連抗体薬が使用可能となり、片頭痛の予防治療に新たな選択肢を提供しています。これらの薬剤はCGRPシグナル伝達を遮断することで発作の頻度を低減し、従来の予防薬と異なり神経ペプチドレベルでの作用を持ち、副作用が比較的少ないとされています。
次回は、CGRP関連製剤についてさらに詳しく解説していきます。
文責:東新宿あらい内科クリニック 副院長 新井祐子(日本神経学会専門医)