2025年5月14日
片頭痛のメカニズム・研究の変遷
片頭痛の発症メカニズムは長年にわたり議論されてきました。かつては血管の収縮と拡張が主な原因と考えられていましたが、現在では三叉神経の関与が注目されています。本稿では、研究の歴史を踏まえて片頭痛の発症機序を整理します。
- 1940年代:血管説の時代
片頭痛の原因は脳血管の異常な収縮と拡張によるものとされていました。この説では、血管拡張が痛みの主因と考えられ、血管収縮薬(エルゴタミンなど)が治療の中心でした。しかし、後の研究により、血管拡張と痛みの発生が必ずしも一致しないことが判明し、血管説単独では病態を十分に説明できないことが明らかになりました。
- 1980年代:神経説の登場
片頭痛の前兆(aura)に関する研究が進み、皮質拡延性抑制(CSD)が関与している可能性が指摘されました。CSDとは、大脳皮質の神経細胞が一過性に興奮した後、持続的な抑制が広がる現象であり、視覚症状を伴う片頭痛の発作メカニズムと関連していると考えられています。
- 1990年代:三叉神経血管説の確立
三叉神経終末が刺激されることでCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPが放出され、神経原性炎症が生じることが確認されました。これにより、痛みが持続・増悪すると考えられ、三叉神経血管説が広く支持されるようになりました。
- 2000年代以降:画像診断技術の進歩
PETやMRIを用いた研究が進み、片頭痛発作の予兆期(頭痛発作の2~3日前)にはすでに視床下部の異常が確認されることが分かりました。また、視床下部からPACAP38が分泌され、片頭痛発作に関与している可能性が示唆されています。
片頭痛の病態に関する理解は今も進化を続けています。次回は、この研究の発展をもとに、治療の変遷について考察します。
文責:東新宿あらい内科クリニック 副院長 新井祐子(日本神経学会専門医)