2025年10月06日

片頭痛の急性期にも予防にも使える新しい選択肢
2025年9月、片頭痛治療に新たな選択肢が登場しました。ナルティーク(一般名:リメゲパント)は、国内で初めて承認された経口タイプのCGRP受容体拮抗薬です。これまでのCGRP関連薬はすべて注射剤(抗体薬)であり、予防目的に限られていました。たとえば:
- エムガルティ皮下注(ガルカネズマブ)
- アジョビ皮下注(フレマネズマブ)
- アイモビーグ皮下注(エレヌマブ)
これらはすべて「予防専用」であり、急性期の発作には使用できませんでした。
一方、ナルティークは急性期治療と予防の両方に対応可能という大きな特徴があります。片頭痛発作時に服用することで痛みを抑えるだけでなく、隔日投与(1日おき)で予防効果も期待できるのです。
ナルティークの作用機序
ナルティークは、片頭痛の発症や痛みに関与するCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の受容体を選択的に阻害する薬剤です。CGRPは三叉神経周辺の血管拡張や炎症に関与しており、これをブロックすることで、急性期の症状を抑え、発症そのものを予防すると考えられています。
さらに、ナルティークは低分子化合物であるため、注射ではなく経口投与で効果を発揮できる点も大きな利点です。
トリプタンとの違いと安全性
従来の急性期治療薬であるトリプタン製剤は、血管収縮作用を持つため、以下のような疾患を持つ方には使用できません:
- 心筋梗塞や虚血性心疾患の既往
- 脳血管障害や一過性脳虚血性発作
- 末梢血管障害
- コントロールされていない高血圧症 など
これは、トリプタンが5-HT1B受容体を刺激し、血管を収縮させるためです。
一方、ナルティークは血管収縮作用を持たず、非臨床試験でも高用量で心血管系への影響がほとんどないことが示唆されています。そのため、血管系の禁忌がなく、より広い方に使用できる可能性があります。
― 海外臨床試験から見えてきた治療の根拠 ―
ここでは、急性期治療と予防療法に関する海外の臨床試験をご紹介します。日本でも同様の試験が行われていますが、今回は国際的なデータに焦点を当てます。
急性期治療:BHV3000-303試験
この第Ⅲ相試験では、中等度から重度の片頭痛発作を持つ患者さんを対象に、ナルティーク(rimegepant)とプラセボを比較しました。
主要評価項目は「投与後2時間での痛みの消失」と「最も煩わしい随伴症状(MBS)の消失」です。MBSとは、悪心・音過敏・光過敏などから患者自身が最も不快と感じる症状を指します。

いずれもナルティーク群で有意な改善が認められ、急性期治療としての有効性が示されました。
予防療法①:BHV3000-305試験(プラセボ対照)
この試験では、片頭痛の病歴が1年以上ある成人患者さんを対象に、ナルティークの隔日投与による予防効果を検証しました。
主要評価項目は「1か月あたりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化」です。

ナルティーク群で有意な予防効果が確認されました。
予防療法②:I5Q-MC-CGBD試験(ナルティーク vs エムガルティ)
承認根拠ではありませんが、ナルティークとエムガルティ(ガルカネズマブ)の予防効果を直接比較した試験もあります。
この二重盲検第Ⅲ相試験では、反復性片頭痛患者さんを対象に、両薬剤の効果を検証しました。主要評価項目は「片頭痛日数がベースラインから50%以上減少した参加者の割合」です。

両群に有意差はなく、予防効果は同程度と考えられます。
CGRP関連抗体薬との違い・比較
【片頭痛】CGRP関連薬の一覧(2025年9月時点)

ナルティークは、国内で初めて登場した経口のCGRP受容体拮抗薬です。特徴的なのは、片頭痛の急性期治療と予防の両方に使える点で、患者さんにとって大きな選択肢となります。また、予防効果については、既存の注射薬エムガルティ(ガルカネズマブ)とほぼ同じレベルの効果が期待されています。経口で手軽に使える新しい治療薬として、片頭痛ケアに新風をもたらしています。
使用できるまで、まだ数か月ありますが新たな情報が入り次第、頭痛コラムでも取り上げていきたいとおもいます。